さくら曜日 第5話原案書(2001/08/08)

第5話

プルプルプル…。
7月の夕暮れ一夏の家の電話が鳴りました。
ドタドタドタ、がっちゃん。
「もしもし、川本ですが」
一夏が自分の部屋から駆け足で出てきて電話に出ました。
「もしもし一夏ちゃん?未来だけど」
「未来ちゃんどうしたの?」
「明日ひま?」
「うぅん。別に用事はないけど…。」
「じゃ明日駅前通りのお祭りに行こうよ。友美ちゃんと一緒に」
「うん。いいよ♪」
「じゃ5時に桜並木の木の下でね。」
「うん、わかった。」
「じゃあね〜場所間違えないようにね〜」
「うん、ばいばい〜」
ガチャン。一夏は受話器を置きました。
『お祭りかぁ〜。』
一夏は窓の外を見ました。そして窓際にある金魚の入ったガラスのうつわを見ながら
夕焼け色にほほを染め、ふと昔のことを思い出し始めました・・・。


「一夏ちゃぁん、ここで金魚すくいやってるよ〜。」
「どこどこ?わぁ〜♪」

ここは駅前通りの商店街。商店街にお客さんを呼ぶために
夏と秋の年2回祭りを開いていました。
この日一夏と優一は初めて2人だけでお祭りに来ました。
もちろん二人のお母さんの許可を得て・・・。
二人はうきうき、わくわく。
でも一つだけお母さんたちと約束をしました。それは必ず5時までには家に帰ってくること。
それとおこづかいは一人500円だけ。
それでも一夏たちは大喜びしました。だって二人だけでどこかに出かけるのは
これが初めてなのだから…。

「ゆうくん金魚さんすくいできるの?」
「うん、ぼく結構得意なんだよ!」
「でも・・・あのおじちゃんちょっと怖そうだね」
露店に立っている人はサングラスをかけていてちょっとこわそうなおじさんでした。
「大丈夫だよ・・・たぶん」
優一と一夏はちょっと不安になりましたがそのおじさんの店へ行きました。
「お願いします」
優一はおそるおそる200円をポケットから取り出しおじさんに渡しました。
「はいよ!一回ね」
おじさんは見た目より怖くありません。
二人はほっとお互いの顔を見合わせました。

「早くやってみせて〜」
一夏が言うと優一は金魚すくいをはじめました。でもなかなかうまくすくえません。
「ゆうくんがんばれ、がんばれ〜」
「えい!」
優一が言った瞬間金魚が一匹おわんの中に入りました。
「わぁ〜ゆうくんすくえた、すくえたぁ〜」
「でも・・・やぶけちゃった」
一夏にやぶれてしまった紙を見せながら優一が言いました。
「でもゆうくんすごいよ〜」
一夏は目をきらきらとかがやかました。

「おじちゃんお願いします」
優一は露店のおじさんに金魚が一匹入ったおわんを渡しました。
「はいよ!一匹だからかわいい彼女の分と2匹入れとくね」
そう言っておじさんは一匹おまけしてくれました。
「わぁ〜ありがとう♪」
二人は満面の笑顔でおじさんにお礼を言いました。

「よかったね、いいおじちゃんで・・・」
「うん〜♪」
二人はそのあともいろんな所を見て回りました。
踊りにキャラクターショー。露店もいろいろなお店に行ってみました。
わたあめ、りんごあめ、くじひき・・・。
二人はお金をそんなに持っていなかったので買うことはできませんでした。
でも二人は二人で来れた事が一番うれしかったのでそんなことは気にしませんでした。

「あっ〜もうそろそろ5時だよ」
一夏は駅の時計搭を見て気づきました。
「本当だ〜もうそろそろ帰らないと・・・」
二人は急いで家に帰ろうと駆け足で歩き出しました。
「楽しかったねぇ〜」
「うん!」
二人はそう話しながら歩きました。そしてあっという間に一夏の家に着きました。
「あっ。一夏ちゃん金魚どうする?うち金魚鉢ないんだ〜」
「う〜ん。あっそうだ!」
一夏はあわてて家の中に入っていき丸いガラスの入れ物を持って出てきました。
「これで大丈夫かな〜」
一夏はその入れ物を優一に見せました。
「うん、大丈夫だよ。あっそうだ!一夏ちゃん、この金魚預かってくれる?」
「うん、いいよ〜。でもゆうくんが取った金魚〜・・・。」
一夏はすこしだまってしまいました。
「ぼくが取った金魚きらい?」
「そうじゃないよ〜全然ちがうよ〜。ただ・・・」
「なに?どうしたの〜」
優一は一夏の悲しそうな顔をしているのを見てだまって話を聞きました。
「ゆうくんが毎日金魚さん見られなくなっちゃうと寂しいんじゃかなと思って・・・
だってゆうくんのすくった金魚さんだもん」
「そんなことないよ!毎日じゃないけど一夏ちゃんの所に遊びに行く時みせてもらうもん。
だからぼくは全然寂しくないよ〜」
「そう〜?」
「うん!」

二人は一夏の家の庭の蛇口の所へ行きガラスの入れ物に水を入れました。
そしてその中に金魚を放しました。
「金魚さんよろこんでいるね。」
「うん〜」
二人はその金魚を暗くなるまでず〜っと眺めていました・・・。
心の中の温かい気持ちを大切にしながら・・・。

〜第6話へつづく〜

戻りますの〜♪