「第二回」

「いやね、菜奈美ちゃん。急にどうしたの?」
美咲が困ったような顔で妹に話しかけた。
すると妹がはっとした感じで俺の後ろにもう一度隠れてボソって話す。
「ごめんね、お姉ちゃん。私、変になっちゃった。だから気にしないで」
「うんん。気にして無いから・・・。二人とも私、行くね」
美咲はあわてたように先に行ってしまってその場には妹と俺の二人が
ぽつんと立っていた。
その時の妹は悲しそうな顔をして何かをつぶやいていたような気がしたが
俺は聞き取ることが出来なかった。

スーパーに着いた俺たちはシャンプーとちょっとしたスナック菓子を
買い店を後にした。
すると妹はいつもの妹に戻っていた感じがした。
少なくとも俺にはそう見えた。
帰り道妹はなんとなくつぶやいた。
「お兄ちゃんは私のお兄ちゃんでずっと一緒に居てくれるんだよね」
「何だよ、急に変なこと言い出して」
「ううん、別にぃ〜」
俺はそんな事を言い出した妹になぜかドキッとしていた。

「ただいま〜」
家に着いて妹はそそくさと浴室に走っていった。
いたずら気味に笑みを浮かべた妹は「一緒に入る?」と聞く。
そんな冗談を軽く受け流し妹を手払いで追い払う。
「冗談じゃ無いのになぁ」
そんな呟きが聞こえた俺は理性が飛んでしまいそうだった。

自分の部屋に入って布団に横になる。
畳に布団がひいてある小さな部屋。
目をつぶるとなぜか妹、菜奈美と幼馴染の美咲の顔が浮かんだ。
昔は仲の良かった菜奈美と美咲。
なぜか最近はあまり話をしているのを見かけなくなっていた。
「昔は三人でよく遊びに行っていたのになぁ」
そう小さい時はよく三人で色んな場所に遊びにいっていた。
この町は子供が遊ぶような場所は少ないけど自分たちで遊ぶ場所を
見つけては学校帰りに鬼ごっこやかくれんぼなどをしていた。
「何でこんな風になっちゃったんだろう・・・」
俺はまぶたが重くなっていく中そんな事を考えて眠りに落ちていた。

「お兄ちゃん、お風呂空いたから入っちゃってよ」
妹の声が扉の外からかすかに聞こえてきた。
浅い眠りから一気に現実に引き出された俺は時計に眼をやる。
「あれから1時間ぐらいか・・・。」
妹はいつも風呂には長く入っている。一時間なんて余裕らしい。
そんな俺も風呂は嫌いではないがそんなに長くは入っていない。
せいぜい長くても30分ぐらい。
それを長いか短いかは個人の考えなのでなんとも言えないが俺には
十分長風呂なのである。
「お兄ちゃん、聞こえないのぉ〜」
痺れを切らした妹がバスタオル一枚で扉を開けて入ってくる。
こんな事はいつもの事なので俺は気にしない。
「聞こえてるよー。ちょっと寝ぼけていただけだ。」
「お兄ちゃんいつも私が呼んでもすぐ出てこないよね。
この前だって私が・・・。」
妹が何かを言いかけたがすぐ口をつぐんでしまった。
「何だよ。言いたいことがあればはっきり言えよ」
「もういいよ。今、こんな話をしても始まらないしさっさと
お風呂入っちゃってよ。お湯を沸かすのだって結構お金掛かるんだから」
「はいはい。分かってるよ。」
そんな事を言い出す妹を後ろ目に俺は浴室へ向かった。

ゆっくり浴槽につかる。
「ふ〜う。やっぱり汗をかいたときは風呂だよな」
そんな独り言を言いながら風呂に入っていると扉の向こうから
妹の声がしてきた。
「お兄ちゃん、さっきシャンプー詰め替えるの忘れちゃったから
今詰め替えに入っても良い?」
そんな事を言う妹に俺は聞き返した。
「お前、さっき風呂入ったときはどうしたんだよ」
「残りがあったからそれ使ったの。お兄ちゃんが入っている間に
入れようと思って」
「俺もシャンプーなんて少しあればいいや」
そう言ったその時ガチャっと風呂の扉が開いた。
「菜奈美、良いって言った・・・」
扉を開けた妹の姿を見た瞬間思わず言葉を詰まらせてしまった。
「えへへ・・・」
妹がちょっと顔を赤らませながら笑って見せている。
その妹が着ていたのはスクール水着だったのだ。
「ちょっ、菜奈美。その格好・・・。」
「学校の水着だよ。もうじき水泳の授業が始まるから去年の着れるかなって思って着てみたの。」
妹は水着から少しはみ出したお尻を気にしながら笑ってみせる。
俺は少し動揺したが妹のこんな行動はいつものことなのですぐ冷静に戻ってた。
「ちゃんと着られたか」
「ちょっと小さくなっちゃったかな。」
そんな事を言いながらシャンプーを詰め替える妹を見ると
冷静だと思いながら少しドキッとする自分が
少し恥ずかしいので早く終わったら出て行けと言うと
妹は小悪魔な表情を見せながら
「せっかくだから背中流してあげようか?」
そんな事を言う妹に俺はちょっとだけ異性として
見てしまったいたのかも知れない。

「少しのぼせたかな」
風呂から出て冷蔵庫を開けて飲み物を出す。
するといつ着替えたのかパジャマ姿の妹が顔を出した。
「私もなんか飲もう〜」
さっきの事なんてまるで忘れたような妹に少しあきれた俺。
すると妹がまだにやにやしだした。
「お兄ちゃんまた私の水着姿思い出しているでしょう」
そんな事を言い出す妹にやっぱり動揺してしまう俺。
するとなぜか考えてしまう。
他の男の前ででもあんなことをするのかと。
もちろん妹に彼氏が出来ることは良い事である。
でもなぜか少し寂しい気持ちもあるのだ。
「お前、彼氏居るのか?」
なぜかそんな事口走ってしまった俺。俺はあわてて繕うように言い直す。
「別に彼氏が居ちゃいけないって訳じゃないぞ。
ただどんな男なのか紹介しろと言う事で・・・」
「私、お兄ちゃんしか好きな人居ないよ」
俺がそんなことを言うと妹が真剣な目で言う。
「突然変な事を言うなよ」
俺は内心ドキッとしていた。
そんな気持ちがあるのなんて全然気づいていなかった。
そして妹はちょっと悲しそうな顔で顔を赤く染めて言った。

「もちろん異性としてだよ・・・。
お兄ちゃん恋人として好きになっていいですか?」

少し間が開いて俺は一言つぶやいた。
「ごめん。俺は菜奈美の事は好きだよ。でもそれは妹としてで・・・。
それに俺には好きな人がいるんだ」
そう言った瞬間。妹は口を開いた。
「私分かってる。お兄ちゃんの好きな人は美咲お姉ちゃんだって。
でもやっぱり私、諦められない、諦めたくないから・・・。」
そう言って妹はあわてて部屋に戻っていってしまった。
俺はいたたまれない気持ちでいた。
同時に幼馴染の美咲への思いがいっそう膨れあがった自分に少し動揺した。


(2012山中ぶどう)