私たちの人権を守る法務省であってください
 
(氏名 省略)


  「『養子・養女』はプライバシーにはあたらない」「『養子・養女』がプライバシーなら、生年月日もプライバシーということになる」。これらは法務省の役人が、私の質問に対して放った言葉だった。

  判決内容には、「非嫡出子の続き柄がプライバシーの侵害にあたる」とあり、判決後、法務省が「戸籍の続柄欄において申し出た婚外子にだけ『長女、長男』などの続柄にする」という方針を出した。交流会では「子どもの続柄を『女』『男』で統一」「申し出ではなく、職権による訂正」をして欲しいと、話し合いの場を持ったときのことであった。私が出席できなかった1回目では、「養子・養女は続柄変更の対象外である」いうことだったので、2回目の4月26日に行って「続柄欄変更で、養子・養女についてはどうなっているのですか」という質問に対する回答が、前述のものだった。

  私の想像をはるかに越えた内容に、驚きのあまり一瞬固まってしまった。私は自分の選択で「養女」になったが、それでも他人に一方的に知られるのは嫌だった。私のまわりには親が隠し続けている家族もあったし、事実を知った子どもの気持ちが荒れたケースもあった。まさか「生年月日」と同程度のプライバシーでしかないなどと思ってもみなかった。 彼は続けて、「養子であるという事実は、まわりのみんなが知っていることです」と言った。「新興住宅地などで知らない場合もあるではないですか」「結婚するときに『養女』という事実だけで、差別されることも実際にあるんです」と言い終わらないうちに、「 『養女』ということを隠して結婚する方が間違っている」と、私の言葉をさえぎって言った。「判決は非嫡出子に対してです」「では養子・養女も統一するには、同じように裁判しなければならないのですか」といったら、黙ってしまった。

  いったい法務省というところは、誰のために、何のために存在するのだろうかと思った。私が質問する前に、田中さんが「法務省は国民の人権を守るところですよね」といったので、「そうか、法務省というのは私たちの人権を守るためにあるんだ」と感動をもって聞いていた。だから余計、彼の発言に私はフリーズしてしまった。

  私と連れ合いは高校の同級生で、友達としてつき合っていた。当時、彼の家族の一人が、私の「戸籍謄本」を勝手にとり家族関係を盗み見ていたことを、20歳代後半に知った。2人が人生を共にしようと決めたとき、彼は電話越しにその人から「アレと一緒になるなら、家族の縁を切る」といわれたそうだ。「アレ」とは、「『養女』である私」のことである。私たちが高校生であったころから、10年近く隠し持っていた私の「戸籍謄本」は、その少し前に棄てたそうだ。この事実は20年近く経つ現在でも、心の痛みとして残っている。

  だからこそ私は、住民票続柄裁判から交流会員として15年という年月を重ねてくることができたのだと思う。私の心の痛みが、生年月日と同程度なんて神経の持ち主が、国民の人権を守るべき機関にいるという事実をどう考えればいいのか、私にはわからない。この15年たたかってきたことは、いったいなんだったのか。養女・養子だけを置いてきぼりにする結果になったら、人生の中の15年間を消し去りたくなるかもしれない。

  私は「長女」になりたいのではないし、チャンスがあったとしても「長女に変更してください」と役所の窓口に行きたいわけでもない。ただただ、「子どもは み〜んな平等だよ」と運動してきたことを、みんなの幸せとして受け取りたい、それだけだ。人権というのは「意識」以前に、「感覚」なのだと思った。


  法務省民事局民事第一課 御中
   戸籍の続き柄欄では、すべての子どものプライバシーを守り「長女・長男」の表記ではなく、「女・男」または「子(女)・子(男)」と表記してください。
  婚内子と婚外子の続き柄統一は、もちろんですが、なぜ養女や養子が統一対象にならないのでしょうか。養女・養子表記がプライバシーの侵害にあたらないといえるのですか。法務省は国民の人権を守る機関ではないのですか。続き柄欄でつらい思いをしているのは、婚外子(棄児も)だけでなく、養女・養子にも、婚内子にもいるという事実を認識していただき、職権による「統一表記」を心より願っています。
   国民のための法務省であってください。