2003年2月25日 第15回口頭弁論報告


 田中須美子

  次回はほぼ結審!と呼びかけて、もし持ち越しになってしまったらなんだか”狼少年”みたいになってしまうなーとふと心配になりますが、ほぼそういう方向ではないかとのことです。そうであれば一審最後の口頭弁論となります。
  実は25日の口頭弁論も、もしかしたら結審になるかもしれない、そうなった場合のために最終弁論に近い準備書面を出しました。準備書面(11)と(12)および書証(91〜103)です。
  しかし、結審にならずにすみました。裁判長が私たち原告側に、以下2点について文書の提出を求めたことと、国側がこれらの書面への反論の機会を求めたためです。
    1     原告側準備書面(11)で何が違法なのか整理した箇所の中の、「法務大臣によるひな形を訂正しない行為」について、不法行為として新たに主張するのか。
    2     国側が「訴訟進行に関する意見書」を当日提出し、またも「請求原因がいまだ不明である」と主張し、かつ一対何が違法行為なのか、その違法行為の結果原告にどのような損害が発生したのかにつき釈明を求めたため、これについての釈明を。
  国側は、準備書面を当日午後にFAXで送ってきたため、私たちは法定の場で初めて見ました。(この間、毎回この状態が続いています。)そのためか、内容について説明させてくださいと、国側の主任代理人らしき検事が、「訴訟進行に関する意見書」について説明し、原告側に上記のような釈明を求めました。
  裁判長からその究釈明が求められ、原告側は3月18日までに釈明するよう、そしてそれへの国側による反論書面は4月18日までに提出するよう支持されました。


<一覧性とは「一目で明瞭であること」という被告側への反論>
 −「広辞苑第5版161頁参照」の装い−

  準備書面(11)は一覧性などへの反論で、(12)は憲法違反と条約違反の主張です。特に準備書面(11)は志学館大学教授の澤田さん、星野澄子さんそして元戸籍係の嶋さんや岸さん、など多くの方にさまざまなアドバイスをいただき、また行政書士の足木さんの陳述書も引用しつつ、全面反論したものです。
  国側は裁判の始めから続柄の差別記載は「一覧性を持って明らかにすることを目的とする戸籍制度の機能を維持するために必要」と述べていたのですが、旗色が悪くなり前回の準備書面(9)で、ごまかしの主張を展開しました。
  これが官僚のごまかしのテクニックかと、驚くほどです。国側は、一覧性とは一目で明瞭に見ることができることを指すのだと言い換え、その主張を補強しようとして、「広辞苑第5版161頁参照」とまで記載して来ました。
  161頁参照とまで書かれれば、そうか広辞苑でもそう説明しているのかと信用してしまいます。私たちもあぶなくごまかされるところでした。本当にそう書かれているのかなとふと思い、念のため「広辞苑第5版161頁」を見て見たら、何と”一覧性”という用語はどこにも見当たりません。当の、161頁に載っていた用語は”一覧表”や”一覧”のみで、「一覧表」の意味は「種々の事項を一目で明瞭にみられるように作成した表」、「一覧」は「全体が一目でわかるようにしたもの」というものでした。
  自らに都合の良いように斜体にした箇所だけをとりだし、これが一覧性の意味であるとあたかも広辞苑に書かれているかのように装ったのです。二つの用語の意味は、全文を読めば結局のところ国が従来から主張してきた「一覧的に把握する」という意味に合致していました。(もし広辞苑第5版がそばになく、国側のいうことを信じてしまったら全く違う反論主張になったかもしれません。)
  ここまでごまかすか!とホントに驚きで、「恐れ入谷の鬼子母神」「アッと驚く為五郎」などと口走りたくなる心境でした。(皆さん、象徴を代表して対峙する官僚には気をつけましょう!)
  一覧性の意味が仮に国側の言い換えた意味であろうと、従来通りの意味であろうと、一覧性そのものが、近年の戸籍の簡略化により限りなく後退しています(法務局次長であった当時島野穹子氏自身が、『現行の戸籍は身分登録簿としては不完全なものとなってしまった』と書かれています)。そのため父母との続柄のみを「一目で明瞭に」という理由で差別記載を維持する根拠は見当たらないし、深刻なプライバシー侵害や差別を引き起こす差別記載がそれでもなお合理的とは言えません。
  国側は、戸籍法には「一見して目立たないようにしなければならない」ことを明記した規定は存在しない、などとおかしな主張をしています。しかし戸籍謄・抄本交付への部分的規制や特別養子制度の導入などにより、「プライバシーの保護」は戸籍法の重要な解釈基準となってきており、差別記載の放置はこれを完全に無視したものとなっています。

  25日の口頭弁論には、またたくさんの方が傍聴に駆けつけてくれました。妊娠中の方や赤ちゃん(もう10ヶ月になりました)連れの育児休業中の方、お茶の水女子大の学生や大学院生の方、アナウンサー学校の学生の方(谷岡さんが傍聴初めてという教え子を連れてきてくださいました)。さらには、今回も多くの方が仕事を切り上げて駆けつけてくれるなど傍聴席がいっぱいになり、熱い応援をいただきました。ありがとうございました。