戸籍でけんかしたい人のための基礎知識(5)



                         嶋崎久美子



場面5 養子縁組届 −その2−



『私の独り言』 シングルは特別養子縁組の養親にはなれないのよ。ひどいと思わない?



 1987年の民法改正は、いい所もありましたが、前号でも書いたように腹の立つ箇所もたくさんありました。その一つが特別養子縁組の中にあります。この制度、当時は結構話題になっていたので、覚えている方もいらっしゃると思います。

 特別養子縁組は、専ら子の利益を図るための制度として新設されました。普通の養子縁組と異なり、実父母との親族関係が終了します。戸籍の父母欄にも実父母ではなく養父母の氏名が記載され、続柄は長女(男)・二女(男)となります。

 ところがこの特別養子縁組において、養親となることができる者は婚姻をしている者に限られるのです。これについての法務省の言い分を引用します。「婚姻をしていない者が特別養子縁組の養親となることができないとされたのは、唯一の親として将来にわたり乳幼児を適切に看護養育するには、養親が夫婦であるのがより望ましいこと、養親が独身者であると戸籍上父母欄の一方が空白とならざるをえず、自然な記載をすることができないこと……等による」

 親は夫婦であるほうが望ましい! 戸籍上父母欄の一方が空白だと自然な記載でない!! こんなことを、人権を守るべき法務省が言っちゃって良いわけ?と、当時の私は怒りまくっておりました。 





場面6 認知届



『お客様A』 父親が認知したのですから、父の籍に入ります。



旧法時代、父が認知した『私生子』は『庶子』という身分に変わり、父の家に入りました。もちろん、氏も父の氏に変わります。

 『家』制度がなくなったという建前の現在は、認知によって戸籍が動くことはありません。父の戸籍に入るためには、離婚届・養子縁組届で述べたと同じく、家庭裁判所で父の氏に変更する許可をもらい、市役所で父の戸籍に入るための入籍届が必要です。

 しかし、こういったケースで家庭裁判所は、なかなか許可を出さないようです。父が単身であればともかく、父に同籍する妻子がある場合は同籍者の同意を要するのです。

 初めてこの事実を知ったとき、私は仰天しました。『家』制度が廃止され、氏は個人の呼称になったはずです。子が事情あって父の氏に変更したいと思ったときに、何故、第三者の同意が必要なのでしょうか。



 法務省の見解は、「婚姻外に生まれた非嫡出子が婚姻中の父の氏を称してその戸籍に入る場合には、父の妻、異母兄弟の感情、社会的地位を害することにもなる」ため、「家庭裁判所に関与させる」というものです。

 しかし、認知と違い、父の氏を称する入籍には何ら実体的な法律効果はありません。ですから法務省も、感情とか社会的地位などという曖昧な表現をするのでしょう。(でも、『父の妻子の社会的地位を害する』って何のことでしょう。体裁が悪いということですか?)法律効果はないのだから父の妻の感情に配慮する必要はない、という考えも当然成り立ちます。



 認知された子が父の氏を名のるためには、子は父の戸籍(すなわち父の妻と子がいる戸籍)に入らなければなりません。今の戸籍法では、父の氏を称する子は父の戸籍に入籍すると規定されているからです。子が、氏だけは父の方に変えるけど戸籍は単独に作る、ということはできないのです。

 そうであれば、自分達と同じ戸籍に入ってきてほしくないという法律上の妻子の感情もあるだろうな、という気がします。逆に入籍する子どものほうも、父の法律上の妻と同じ戸籍に入るのは心穏やかではないかもしれません。

 認知された子が最初から自分ひとりの戸籍を作ることができれば、法律上の妻子の意向は全く関係なくなるはずです。 個人籍になれば解決です。

 一挙にそこまでは無理でも、せめて離婚届のように新戸籍を作れるといいのです。離婚届では親元の戸籍に戻るか自分ひとりの新戸籍を作るかを選ぶことができます。入籍届でも新戸籍を作れるようになればいいのですが。             (つづく)