2003年7月8日 女性差別撤廃委員会日本審査報告
―ロビー活動が大成功、婚外子差別の問題を委員が次々に指摘―

                         田中須美子

女性差別撤廃委員会各委員へのロビ−活動

 今年に入って、いよいよ年内には出されるかもしれない戸籍続柄裁判の判決でぜひとも勝訴を勝ち取りたい、そのためには女性差別撤廃委員会による戸籍続柄差別記載撤廃・婚外子差別撤廃の勧告を引き出し、社会的包囲網を作っていきたいと思いを定めました。

 勧告に盛り込んでもらうために女性差別撤廃委員会への働きかけを行うことにし、2月からカウンタ−レポ−トやサマリ−レポ−ト作成、委員会へのブリ−フィング用原稿などを作成し、各委員への説明の際に役立てるため助けを受けながら『英文リーフレット』も作りました。さらには婚外子差別に関する幾つかのポイントについて、予想される日本政府の回答とそれへの反論を委員向けに作成しました(英文の多くを大村さんにお願いし、加藤さんや竹内さんににも助けていただきました)。日本で行える準備としては一応やりきって、女性差別撤廃委員会各委員へのロビ−活動に向け6月29日にニュ−ヨ−クへ出発しました。

 女性差別撤廃委員会の会期は6月30日(月)から7月18日(金)の2週間で、日本政府報告書に基づく審査は7月8日でした。この7月8日の審査に向け、6月30日からロビーングを開始し8日午後の日本審査当日の6日間、委員の一人一人に要請していきました。結果として23人(一人は国際刑事裁判所へ移動のため欠員)中日本の委員を除き委員21人に対して、要請できたのは以下の国の委員17人でした。

 韓国、スゥェ−デン、ドイツ、アルジェリア、オランダ、ポルトガル、フイリッピン、 エジプト、メキシコ、ハンガリー、ナイジェリア、ベニン、タンザニア、ル−マニア、 バングラディシュ、モ−リシャス、クロアチア

 インドネシアとフランスの委員に対しては、説明しかけたのですが途中までになってしまい、キューバとトルコの委員には時間切れで全く要請出来ませんでした。

 この要請にあたって、まず重点をおいたことは、この婚外子差別の問題は女性差別であり、委員会審議に値するものであることを伝えていくことでした。なぜなら日本政府が婚外子差別はこの女性差別撤廃条約に該当しないという態度をとってきたためでした。

 そのため、加藤さんと相談しまず私自身が「性別役割を強いる結婚を拒否したこと、その結果子どもが婚外子として差別されたこと、この差別の撤廃を求め裁判に訴えていること」について自己紹介し、そのあと加藤さんが英文リーフレットを示しながら戸籍の差別記載の問題、出生届差別記載強要の問題、婚外子出生率の低さ及びその原因などについて説明していきました。

 カウンターレポートやサマリーレポートでは、相続差別の問題、国際婚外子の問題なども指摘し、民法改正の状況について女性差別撤廃委員会から日本政府に事前に質問が出され、相続差別規定の撤廃状況についてNGOとしての回答を行いましたので、委員への要請においては戸籍の差別記載、出生届の差別記載強要の問題を重点に説明しました。

 この説明の過程で、日本の婚外子出生率と出生数の流れを委員に渡す必要が生じ、急きょ日本から福喜多さんに送ってもらい朝英訳してその日委員へ渡したり、アルジェリアの委員が差別記載を撤廃してどうすべきと考えているのかとの質問が出されたため、その夜に“差別記載撤廃のためのQ&A”を作り上げ、翌日委員へ渡したりしていきました。


<委員の好意的な反応>

 婚外子差別の問題について委員に説明をしていくと、次々ととても好意的な反応があり、嬉しくかつ勇気づけられました。

 ベニンの Gnancadjaさん(法律家)は、加藤さんが説明していると即『罪だ』と言い切りました。また、アルジェリアのBelmihoub-Zerdani さん(法律家)は『女性差別撤廃委員会での日本に関する私にとっての一番の問題だ』と私たちに語りました。

 またタンザニアの Kapalata さん(外交官)は『この問題はここでは共有化されている』と言ってくれました。これは8日の午後の審査開始前のことでした。

 韓国の申さんからは、リーフレットの戸籍の説明を聞いていて、戸籍や長女など漢字ではどう書くのかと質問されたので、日本語のリーフレットを渡して説明しました。またルーマニアのSandruさんからは、父親が認知した場合親権は父親も持つのかと聞かれました。

<JNNC主催の委員を招いての昼食ブリーフィング>

 自由人権協会や反差別国際運動日本委員会など12団体が2分ずつ発言し、交流会からも加藤さんが発言しました。この昼食ブリーフィングで効果的な発言とを2分に絞って英文を作り直しました。ここでは婚外子差別全般を網羅的に語り、3月、6月の最高裁合憲判決のことや人権条約にもとづく委員会からの勧告が無視されてきたことなども報告しました。 これに対し、参加した11人の委員の内3人が婚外子の問題について質問や意見を述べました。特に感銘をうけた委員の発言としてアルジェリアのBelmihoub-Zerdani さんの意見を紹介します。『婚外子の問題に関して、この問題が子ども及び女性に対し差別していると考えます。それは又女性差別撤廃条約にも反しています。これについて委員会はより強い措置を取らなければならないと考えます。解決方法はとても単純です、私たちは婚外子に対しても同様の登録をしなくてはなりません。』 


<7月8日日本審査での婚外子差別問題への言及>

 婚外子差別の問題は16条「婚姻・家族関係における差別撤廃」で審査されました。残念なことは、この16条関係は審査最後になるため、時間が押せ押せになっていて議長から、これからは3分に短縮するが3分をすべて使わないようにと釘をさされてしまったため、各発言が短いものになってしまったことです。それでも委員たちが次々と(12人中7人)婚外子差別の問題について発言したので、それはとても感動的でした。

 とりわけ嬉しかったのは、オランダのFlinterman(男性)さんが、『嫡出子、非嫡出子の登録の問題に関してですが、嫡出子であっても非嫡出子であってもこれを区別することは、国際法に違反しており、婚外子の国籍登録の慣行は当該女性の権利の侵害になると考える。これに関してコメントを頂きたい』と、戸籍の差別記載が女性の権利の侵害になると言い切ったことです。

 さらにアルジェリアのBelmihoub-Zerdani さんも『戸籍をみるとそれによって非嫡出子であることが分かってしまう。それは差別につながるわけです。戸籍のそこの部分を削除しなくてはなりません。相続における扱いも異なっている。婚外子差別は母子双方に対する差別です。女性差別撤廃条約と整合性を合わせなければなりません。』と、婚外子差別は母子双方への差別であると断じ撤廃を求めたことでした。

 今回のロビー活動は、加藤さんとの二人三脚でした。委員に渡す文書の作成や作業、委員からの質問に備えて戸籍に関する討議など睡眠時間数時間という連日の過酷なロビー活動でした。中3日休日がありましたが、内二日はホテルにこもって作業をしていました。しかしこの苦労が(嬉しいことに数キロやせて帰国できました!…この嬉しさもながくは続きませんでしたが)報われ、審査の中で多くの委員が婚外子差別の問題に言及しました。審査終了後にその日の朝までかかかって作成した『勧告に盛り込んで欲しい事項』という文書を委員に渡して要請しました。これらがぜひとも勧告に盛り込まれることを期待したいと思います。