婚外子差別撤廃!つくれ住民票!裁判

 

控訴審判決抜粋

 

平成19年11月5日判決言渡

平成19年(行コ)第229号 住民票不記載処分取消等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所

 

第3 当裁判所の判断

3 本件処分について

住民基本台帳に係る市町村長の責務(法3条,6条)である住民票の記載に関し,   

  法8条は「住民票の記載,消除又は記載の修正は,第30条の2第1項及び第2項,第30条の3第3項並びに第30条の4の規定(住民票コードの記載)によ るほか,政令で定めるところにより,この法律の規定による届出に基づき,又は職権で行うものとする。」と定め,上記「政令で定めるところにより,…職権」 で住民票を記載する場合について,施行令12条1項は「市町村長は,法の規定による届出に基づき住民票の記載等をすべき場合において,当該届出がないこと を知ったときは,当該記載等をすべき事実を確認して,職権で,第7条から第10条までの規定による住民票の記載等をしなければならない。」と,同条2項本 文は「市町村長は,次に掲げる場合において,第7条から第10条までの規定により住民票の記載等をすべき事由に該当するときは,職権で,これらの規定によ る住民票の記載等をしなければならない。」と,同条2項1号は「戸籍に関する届書,申請書その他の書類を受理し,若しくは職権で戸籍の記載若しくは記録を したとき,又は法第9条第2項の規定による通知を受けたとき。」と定めている。

   上記各規定からすれば,子が出生したことにより住民票の記載がされるベき場合については,施行令12条2項1号がその手続を定めているものであって,市 町村長が出生届を受理することにより,その後の手続は職権によって住民票に出生した子の記載をすることとされているものと解することができる。

   本件において,世田谷区長は,上記定めにしたがって,本件出生届が受理されていないことを理由として,本件住民票を記載しないという本件処分をしたもの であり,本件不受理処分が違法なものでないことは確定しているのである(前提事実)から,本件処分理由に違法な点はなく,また,12条各項以外の場合にお いて職権記載することは予定されていないというべきであるから,本件処分が法及び施行令の諸規定に反する違法なものと認めることはできない。

 

(2)住民基本台帳法違反の主張について

   法においては,上記のとおり,戸籍に関する事項については,戸籍に関する届出等に基づいて職権記載を行うこととなっていること,また,市町村長は,市町 村の区域内に本籍を有する者につき,その戸籍を単位として,戸籍の附票を作成しなければならないとされ(法16条1項),この附票には,戸籍の表示,氏 名,住所,住所を定めた年月日を記載することになっており(法17条),これを媒介として戸籍の記載と住民票の記載を相互に関連させ,住民票の記載を一元 的に把握し,両者の記載を一致させることにより,住民に関する記載の正確性を確保することとされていること,また,行政実務上も全国的に戸籍と住民票の記 載の連動を前提とした事務処理システムが構築されているのが通常であり,1審被告においても同様のシステムを導入している(弁論の全趣旨)こと,また,住 民票は,住民に関する記録として様々な手続に広く利用される書類であるから,各市町村が独自の法令解釈に基づいて区々な事務処理をすることは望ましいとは いえず,できる限り統一的に記録が行われるべきものであるともいえる(最高裁平成11年1月21日第一小法廷判決・裁判集民事191号27頁参照)ことな どからしても明らかである。

   そうすると,子が無戸籍の状態にある場合において,前記の規定にもかかわらず,なお,職権で住民票の記載をすべき場合があるとしても,それは極めて例外 的な場合に限られるというべきであり,せいぜい,1審被告が主張するように,子が出生の届出を行うことによって,届出義務者や子が重大な不利益を被る場合 で,かつ,戸籍法によって義務付けられた出生届の提出を求めることが社会通念上,届出義務者に期待できないような場合に限定されるというべきである。

   これを本件についてみると,出生の届出義務を負うのは親権者である母ないしその同居者である父(戸籍法52条2項,3項)であるが,本件において出生の 届出がされていないのは,前記認定事実によれば,1審原告父母の個人的信条に基づくものであり,他に同○が住民票に記載されるのに何らの支障もないといえ るのである。そして,その信条とは,出生届の「父母との続柄」欄の記入が子を「嫡出子」と「嫡出でない子」と分けて表記すること自体が婚外子に対する差別 に当たるというものである。しかし,非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定める規定についてさえ,民法が法律婚主義を採用していることなどから すれば,合理的理由のない差別とはいえず,憲法14条1項に反するものとはいえない(最高裁平成7年7月5日大法廷判決・民集49巻7号1789 頁参 照)。本件は,届出義務者である1審原告父母が届出をしようと思えば容易にできる状況にある,すなわち法律上届出をすることに支障はないにもかかわらず, その信条によって法が何人に対しても予定している手続をあえて拒否し届出を懈怠しているものである。したがって,本件において,出生届の提出を求めること が社会通念上,届出義務者に期待できないような場合に当たるとはいえないというべきであるから,上記例外的に許される場合として裁量により職権で住民票の 記載を認めるべき場合に当たるとはいえない。また,後記(4)に述べるところからして,出生の届出を行うことによって,届出義務者や子が重大な不利益を被 る場合にも該当しない(1審原告○○(法定代理人としての1審原告母)は本件住民票の記載がされないことによって同○○に不利益が生じる旨主張するのであ るが,仮に不利益があるとしても,前記のとおりその不利益は専ら同○○の父母である1審原告父母の信条によるものであり,同原告らに思想信条の自由がある ことはもちろんであるが,その信条に基づいて行った本件不受理処分の適法性は前記のとおり既に確定しているのである。このような状況の下で,なお1審原告 ○○(現在2歳)の無戸籍状態を継続させることが,社会的存在としての同原告の長い将来にわたって求められる健全な成長に資するものといえるのか疑問なし としない。)。

  以上の次第であるから,本件処分は適法である。なお,仮に職権により記載すべきか

 どうかについて,世田谷区長に一定の裁量があるとしても,前記したところからして,同区長に裁量権の範囲を逸脱,濫用した違法があるといえないことは明らかである。

 

(4)憲法14条1項違反等の主張について

1審原告○○は,出生届未済のまま住民票記載が行われている自治体が存する

 ところ,これら者が世田谷区に転入した場合に住民登録しなければならないことは明白で あり,そうすると,本件処分によって,同一自治体内に,同一事由で戸籍の記載がないにもかかわらず,一方は住民登録され,他方はこれを拒否されるという事 態が生じるの可能性があり,このような事態が生じることもまた法の下の平等に反する旨主張する。今後1審原告○○が主張するような事態が生じるかどうか必 ずしも明らかではないが,そのような事態が生じたとしても,それは,各自治体が法の枠内で独自に行政を行った結果なのであって,そのような事態が生じたか らといって法の下の平等に違反するということはできない。

  1審原告○○は,本件処分は,国際人権A規約2条1,同B規約24条1,子どもの権利条約2条1,世界人権宣言25条の2及び世田谷区子ども条例に違反する違法なものである旨主張するが,何らこれらに違反,抵触するものではなく,上記主張は採用することができない。

 

4 本件義務付けの訴えについて

義務付け訴訟は,「一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり」,かつ,「その損害を避けるために他に適当な方法がないとき」に限り認められるも

  のである(行訴法37条の2第1項)ところ,1審原告○○は,住民登録は,就学のほかに,転出証明書,選挙,国民健康保険,年金などの事務の基礎とされて いるし,子の住民登録が要件とされている事項として,私立幼稚園児に対する補助金,印鑑登録,区立小中学校の指定校変更」があり,住民票が要求される場合 として,自動車運転免許証の取得都営住宅への入居等の諸手続があるところ,住民票が作成されないことによりこれらの諸手続に支障を生じることが重大な損害 を生ずるおそれであると主張する。しかし,上記のうち,選挙権の問題については,1審原告○○が現在2歳であってその不利益が現実化しているものではない からこの点で重大な損害は生じていないし,その他の点については,証拠(乙1ないし6,9,10,13ないし20)及び弁論の全趣旨によれば,住民登録あ るいは住民票がなくても手続において煩瑣な点があり得るとしても,これらがある者と同じ扱いがされる場合が多いと認められるのであるから,1審原告○○に 上記訴訟要件としての「重大な損害を生ずるおそれ」があるとまではいえない。また,1審原告○○が上記損害を回避するために法律上の支障がないことは前記 したところから明らかであり,したがって,本件義務付けの訴えを認める余地はないというベきである。

  そうすると,本件義務付けの訴えは不適法なものというべきである。

 

 以上によれば,原判決中,1審原告○○の本件処分取消し及び本件義務付けの訴えを

 認容した部分は相当ではなく,本件処分取消しの訴えは棄去すべきであり,また,本件義務付けの訴えは却下されるべきものであるから,これらの点に関する1審被告の本件控訴は理由があるが,1審原告らの本件控訴はいずれも理由がない。