なぜいまさら「長女・長男」なのか

 福喜多 昇


  裁判での論争は、ほぼ100%勝っていた。国はほとんどまともな反論ができず、苦し紛れに準備書面に平気で嘘さえ書いた。それでも、住民票続柄裁判から裁判所不信の私は「どんなこじつけをしてでも裁判所は国を勝訴させる」という思いが離れなかった。一方で「これだけ論争での優位が明確で、毎回の傍聴席を埋める支援の方の注目があれば、ただこちらの主張を斥けるだけというわけにもいかないのでは」という希望が交錯した。

  その意味で、3月2日の判決はあまりにも予想通りだった。そして、それだからこそ、裁判官の見え透いた「配慮」と臆病さには怒りを覚えた。これでは、法務省は勝訴と居直って何もしないのではないか、と思った。

  しかし、1週間後には、田中さんにマスコミからの取材があり、法務省が記載方法を統一すると表明したらしい。改めて判決文を見ると国を勝たせた部分が極めて杜撰な論理展開なのに対し、プライバシー侵害を導いた論旨はかなり精密で、その部分に限っては国の主張をことごとく斥けていた。遂に戸籍の続柄記載が変ると感慨深いものがあった。

  ところが、その翌日、「婚外子も『長男・長女』に」という新聞報道を見て、いっぺんにその感慨も吹き飛んだ。「なぜいまさら」と愕然とする思いだった。しかも、法務省交渉で確認したところ、「養女・養子」の記載はそのまま残すという。

  すでに1996年、民事行政審議会は続柄を統一する時は「男・女」にと決めている。私たちは続柄差別をなくす時は、そうなるものと思い込んでいた。そもそも、家督相続制度がなくなった時点で「長、二、…」という区別は、法律上意味がなくなっている。ただ「男・女」と表記される婚外子を区別(差別)していたにすぎない。その続柄欄の区別をなくす以上、「長、二、…」を廃止して「男・女」に統一するのが論理的帰結ではないのか。 こちらへの変更なら、実務的にも全く機械的に可能であるのに対し、「長、二、…」をつけるとなると、その度に何番目の子どもかを確認しなければならない。また、認知によって後に父親が判明した場合には、記載の訂正が必要な場合も生じる可能性がある。法律上全く無意味な記載のために、実務担当者は結構煩わしい調査をしなければならない。

  今回を逃せば、家制度を強く意識させる「長、二、…」の記載は、当分生き延びることになる。兄弟姉妹(双生児でさえ)の間に序列をつけるという旧い思想は、21世紀初頭で終らせるために、法務省交渉を追及したい。