<通信Voiceより>

 

つくれ住民票!裁判 2009、4・17最高裁判決

 

最高裁、住民票作成を認めず 

 

*住民票記載は法の趣旨に反しないと言及

 

                     田中須美子

 

  最 高裁第二小法廷による判決は、3対1で住民票不作成は違法ではないとしました(反対は今井功裁判長で、違法であるとの少数意見を述べています)。その理由 の中で・「適式な出生届を提出することに格別な支障がないにもかかわらず提出を怠っている」・「適式な出生届を出さないその信条に配慮して区長は付箋処理 を提案したにもかかわらず提出を怠っているもので合理的理由はない」と述べています。

・ の「格別な支障がない」と判断すること自体、自らの差別への無知と差別性を露呈しています。「嫡出でない子」にチェックさせることは不当であり、「格別な 支障」そのものです。昨年10月の自由権規約委員会の勧告(出生届書で嫡出であるか否かを記載しなければならないと規定する戸籍法49条を含む、婚外子を 差別しているいかなる条項も法律から削除すべきである)を受けてもなおこのような判断しかできない最高裁の姿勢は、婚外子差別を積極的に是認するものであ り怒りを覚えます。

 ・は、差別記載は不当とチェックを拒否する行為を個人の信条の問題にすりかえていますが、自由権規約委員会で出生届の差別記 載撤廃を明記して勧告されたことでも明白なように、個人の信条の問題でないことは明らかです。これは人権の問題であり、差別撤廃が求められている法制度の 問題です。そしてあろうことか「付箋処理」は行政が母の信条に配慮したものと述べるにいたってはあきれ果てます。もし本当に信条への配慮というのであれ ば、付箋処理拒否と差別記載拒否とは一体のものですから、付箋処理拒否にも配慮がされねばならなかったはずです。そうしなかった行政に落ち度があり、母の 記載拒否に合理的理由ありとして、住民票不作成は法の趣旨に反すると判断されるべきであったと思います。そうすることなく出生届の不受理を母親の責任に化 した最高裁の姿勢は許せません。 このような酷い判決の中で唯一良かった点は、出生届が不受理であっても「住民票の記載をしたとしても法の趣旨に反する措 置ということはできず、むしろ事務処理の便宜に資する」との判断を示したことです。これは今後さまざまな行政との闘いで多いに活用していけると思います。



作れ住民票!裁判 最高裁判決を読んで

 

福喜多 昇

                     

  十数年ぶりに最高裁で傍聴したが、よほど市民には来てほしくないところなのだと改めて感じさせられる。二度も並ばされて待 たされたあげく、荷物をロッカーに預けさせられてようやく入廷が許された。入る時も出る時も他の場所へは行けないように裁判所職員の監視つきである。よほ どやましいことをしている所なのだろうか。

 判決は全面敗訴となった。驚いたのは、住民票不作成の取消しを求めた行政訴訟の部分である。一般に行政の行為として行われる 住民票の作成は(不作成も)、住民の権利に深くかかわる行政処分であり、行政訴訟の対象となる。従って今回の訴訟においても、訴えられた世田谷区も、地 裁・高裁とも、すべて行政処分であることを前提として審議してきた。その結果、地裁は住民票を作成する必要があると判断して原告の訴えを認め、高裁は作成 の必要なしとして訴えを退けた(棄却した)のである。

 しかし最高裁は違っていた。「処分とは言えず、訴え自体が違法である」として、審議の必要すら認めず、門前払い(却下)とし たのである。私には、その理屈がこじつけとしか思えない。さすがに住民票不作成が処分に当たらないとは言えないので、原告らが住民票の作成を求めた行為を 問題とし、「住民基本台帳法に基づく届け出ではないので、世田谷区に応答義務はなかった」だから「住民票を作らなかったとしてもそれが行政処分とは言えな い」というのである。行政訴訟はもともと針の穴を通すような狭き門と言われているが、ここまで狭い穴では通る糸も見つからない。

 損害賠償請求でも、賠償の必要がないという結論で裁判官全員が一致している。しかし、その理由は見解が分かれた。多数意見は 「適法な出生届さえ提出されれば、住民票はできるのだから、出生届を怠った結果住民票が作られなかったからといって違法ではない」というものである。1名 の少数意見は、戸籍と住民票は別のものであり、住民票を作らなかったことは違法だと判断している。しかし、母親が適法な出生届を提出しないのは許されず、 その結果として住民票が作成されていないのだからなどの理由で、世田谷区に賠償責任までは負わせられないとした。しかし、国内で適法とされるその出生届 が、国際人権規約委員会からは条約違反とされているのである。国際社会では当たり前のこととして認められている婚外子の人権が、この国の国境を越えるのは 難しい。

 ただ、多数意見も「住民票を作ったとしても何等違法ではない」と明言し、さらに、出生届が不受理であっても住民票を作らなければ違法となる場合もあり得ると述べていることは、今後の闘いの足掛かりとなるかもしれない。