長野県北端部、野尻湖畔に近い静かな山間の別荘地。道路から西側に向かっての急傾斜地で、正面には黒姫・妙高山が眺められ、四季のうつろいを堪能できるまさに別荘としては申し分のないロケーションである。ただ、非常に頭悩ませたのはこの角度30度にも及ぶ急傾斜地である。 設計は大学の後輩夫婦によるもので、施主である料理研究家の要望は、「暖炉の燃える火を使って料理がしたい。料理する人その上に置かれる物、全てが美しく見えるキッチン」である。設計は、この条件をシンプルかつ大胆に表現している。建物形状を自然に逆らわない等高線の緩やかな曲線とし、メインとなるキッチンには5.3mのコンクリートカウンターを据え、暖炉の炉床を兼ねられるようデザインしている。 施工に当たっては、可能な限り設計者とのコミュニケーションを図り、原寸型板は200枚にも及んだ。敷地条件とシンプルさの追求から生まれる複雑な架構が、この自然条件の中だと不思議なくらい「自然体」として存在している。