Prolog


機内にて忠治、京子海が真下に広がる空に今ボーイング747の機体が静かに飛んでいる。上空は宇宙に向かって黒く静かだ.JAL16 成田発バンクーバー行きのファーストクラスの座席にゆったりとした気分でシャンペンを傾ける。機内のファーストクラスの座席には私たち夫婦と他には4人が居るだけだ。海外に向かうファーストクラスは何時もこんなにすいているのだろうか。殿様になったような気分である。
隣の席では妻が馴れぬ旅に興奮したのか珍しい「キウイジュース」を飲んでいる。どうしてそんなところに居るのか、と言うと、私たち家族が初めての海外旅行を計画し、カナダのロッキー山脈を見物に出かけるところだ。私の身体もそんなに長くは持たないだろうし、持ったにしても身体を自分で何とか動かせる内にやれる事はやってみたいと思い「車椅子の旅」を計画したものだ。今回の旅には妻の京子、長男正典、長女の結花の四人旅である。私は自慢ではないが新婚旅行も京子との二人の旅行などは結婚以来した事がない。ただ一度家族で佐渡へ夏休みを利用して行っただけだ。そのほかは冬にスキーに出かける位で家族サービスなどと言えるものはほとんど無い。ただ会社の仕事だけに生きてきたような気がする。いわゆる会社人間であった。人生の一番楽しい時にヘリコプター事故でこの様だ。家族では初めての海外旅行で落ち着かないが、そんな様子を察してかパーサーが親切に面倒を見てくれる。座席のベルトを締めてフライトを待つ間に、うまいシャンペンをチーフパーサーの清水さんが注いでくれる。またパーサーの小林さんが(小林一茶の家系の人)なにくれと無く面倒を見てくれる。フライトしてから既に1時間ほど経った頃にディナーが用意されてきた。洋食の注文をして置いたのでローストビーフのコースが出てきた。前菜やパン、野菜サラダと食べきれないほどの量だ。(元気な頃ならば喜んで食べるだろうが今の私には腹に入る余裕がなくなってきている。)しかし今日はどうした事か出される料理の旨さについ箸が出てしまう。ローストビーフは大きな塊のまま焼いた柔らかな肉がチーズとバターでくるまれて焼かれており、舌に入れると溶けるような柔らかな肉であった。この肉をチーフパーサーが惜しげもなく真ん中から厚さ5センチ以上の大きさに切って私の皿に盛りつけてくれた。見ただけで、腹が一杯になってきた。それでもワインを飲みながらついに全部食べてしまった。自分でも驚いてしまう。京子は日本食を注文してままごとの様な感じで精進料理に似た日本食をうまそうに食べていたが、こちらも腹が一杯で食べきれなかったようだ。それもそのはずで、出発前に成田空港の日本食の店で松茸ご飯を食べてきていたのだ。3時間前に腹を一杯にして置いたのが良くなかった。これならば喰わないで搭乗すればもっと出された食事がうまく感じた事と思う。
最後にコーヒーと日本茶を飲んで豪勢な夕食が終わる。今夜のメニューを記しておく。オードブルは 、ロシアキャビア、鹿肉のテリーヌ、カラントソース、白魚のマリネトマトカップ盛り、スープはコンソメパナッシュアントレ、ビーフ、ウエリントン、ロメーヌビーンズ、人参の艶煮、クレソン、サラダ、フレッシュ、カボチャとチーズ>の盛り合わせデザート、プラリエクリームのクレープ包チョコレート チョコレート各種ロール、飲物はコーヒー以上だが、シャンペンとワインは一番高いものを飲んだ。また食事中にビールを楽しんだ。話には聞いていたがファーストクラスはこんなに待遇が良いとは知らなかった。いままでがエコノミークラスしか乗った事がないからだ。子供たちもエコノミークラスであったがビジネスクラスにグレードアップしてもらったので、初めてのビジネスクラスの食事を楽しんでいたようだ。私の座席は初め一番前の席であったが、テレビが良く見えて私の小便など排便作業が他の人に見えない様にと、京子がパーサーに頼んだら、気持ち良く2番目のKの席(Kは窓際)で外が良く見える)に変えてくれたのだ。おかげでゆっくりと小便をする事が出来た。私は自分で動いてトイレに行けないために、座席で携帯用のバッグにカテーテルと言う管を使って小便を出すのだ。なんとも情けないが仕方がない。テレビでは夕方のNHKニュースのリピートが放送され「カンター会談」や「日米交渉」のニュースが流れていた。パーサーがアイマスクと鼻の乾きを防止する鼻マスク、耳栓を配り、ついでに洗面用の化粧水や石鹸、シャンプーや櫛髭剃りなどの入った化粧袋を配っていた。当然スリッパなども既に配ってあった。ファーストクラスのスリッパーは綺麗な布の袋に入っている。テレビでは映画が上映されていたが眠くなり、一眠りする事にした。夜中の3時(日本時間)に目を覚まして小便を出す250CCでた。3時までは良く眠った。

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